人形佐七捕物帳010
正月らしくめでたく解決、だからこその｢女夫捕物｣！
「屠蘇機嫌女夫捕物」（横溝正史）
（「完本 人形佐七捕物帳一」）
春陽堂書店
新年早々の夫婦喧嘩から
家を飛び出したお粂は、
路上で越後獅子の男に
抱きつかれる。
男はお粂に
真っ赤な折り鶴を渡し、
それを銀杏茶屋のお亀なる娘に
渡すよう言付けたあと、
血を吐いて絶命する。
その赤い折り鶴に
どんな秘密が…。
横溝正史の傑作時代物ミステリ、
人形佐七捕物帳の第十話です。
正月も明けぬうちから、
お玉が池では佐七とお粂の
夫婦喧嘩が始まります。
のどかといえばのどかなのですが、
もちろんすぐさまお粂は
人殺しに出くわしてしまうのです。
【捕物帳〇一〇｢屠蘇機嫌女夫捕物｣】
お亀
…銀杏茶屋の娘。佐七がお亀からの
手紙を持っていたため、
夫婦喧嘩の原因となる。
弥七
…お亀の兄。越後獅子の男。
毒殺される。
お粂に赤い折り鶴を渡して息絶える。
沢井玄徳
…白壁町の医者。殺害される。
お夏
…玄徳の妾。殺害される。
初瀬九十郎
…お夏の兄と名乗る、盲目の浪人。
沢井玄骨
…玄徳の弟子。代脈。二十六七。
面皰面の醜男。
鳥越の茂平次
…ぼんくらの十手持ち。
四十がらみの大男。
海坊主という綽名がある。
神崎甚五郎…八丁堀の与力。
辰･豆六…佐七の乾分。
お粂…佐七の女房。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
本作品の味わいどころ①
引き立て役！鳥越親分登場
この第十話で初登場となったのが、
鳥越の茂平次親分。
現在の警察同様、江戸の岡っ引きにも
管轄があったのですが、
｢根が傍若無人の男だから、
どこへでも勝手に羽根をのばす｣から
傍迷惑なのです。
しかも容貌も最悪で
｢色が黒くて大あばた、
おびんずる様みたいにてらてらと、
黒光りしている｣と、
散々な書かれようです。
さらには｢威張りちらすところから
ひとびとからげじげじのように
忌み嫌われている｣のですから
困ったものです。
なぜ横溝は
こんなキャラクターを登場させたのか？
佐七のライバル役などではありません。
当然、｢引き立て役｣なのです。
見当違いな調査を始めて、
事件を混乱させるとともに、
筋書きを面白くしているのです。
この親分は、
このあともときどき登場しています。
本作品の味わいどころ②
冤罪を晴らす佐七の名推理
当然、そんなぼんくら親分が
見当違いな事件調べを行うのですから、
見当違いな人間が下手人として
引っ張られることになるのです。
今回はいたいけなお亀が
しょっ引かれてしまいます。
番所で責められて
えらいことになるのでは…と
気を揉む間もなく、佐七が見事
真の下手人を取り押さえます。
冤罪を晴らす佐七の名推理と、
下手人を罠にはめる大胆な捕り物を
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
だからこその｢女夫捕物｣！
新年早々、佐七とお粂の夫婦喧嘩から
物語は始まりるのですが、
結果として夫婦共同で下手人を
見つけ出すことに成功しているのです。
だからこその｢女夫捕物｣なのです。
正月に似つかわしくない
縁起の悪い殺人事件が起きるのですが、
正月らしく
めでたくスピード解決するのです。
なお、本作品が鳥越の茂平次親分の
初登場作品と書いたのですが、
巻末の解題を読むと、
実は初出段階では
別名のぼんくら岡っ引きの
物語となっていたのだそうです。
例によって改稿癖のある横溝です。
特に人形佐七シリーズは
何度も手が加えられた
(人気が出たために、辰や豆六が
登場していない初期作品にも、
改稿して登場させたりした)ため、
初出とは大きく異なってしまった作品が
いくつもあります。
そうしたことを知ることを含め、
横溝作品は読む楽しみがつきません。
【「完本 人形佐七捕物帳一」】
羽子板娘
謎坊主
歎きの遊女
山雀供養
山形屋騒動
非人の仇討
三本の矢
犬娘
幽霊山伏
屠蘇機嫌女夫捕物
仮面の若殿
座頭の鈴
花見の仮面
音羽の猫
二枚短冊
離魂病
名月一夜狂言
螢屋敷
黒蝶呪縛
稚児地蔵
（2018.1.9）
〔人形佐七捕物帳はいかが〕
〔横溝ミステリはいかが〕
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